『歯磨き』っていう言葉が良くない

普段から歯に関わりすぎてしまい、「歯磨き」という言葉に関して違和感を持つ歯科医師は少ないと思います。私もその一人だったのですが、よく考えてみると毎日の歯磨きに必要なのは歯を磨くことではなく、歯の溝や、歯と歯の間、そして歯と歯ぐきの境目の汚れを落とすことなので、「歯磨き」という表現は適切な言い回しであるかはいささか疑問です。

「歯磨きという言葉は慣用的に使われているだけであって、歯磨きを歯の表面を研磨してツルツルにする作業ではないことはわかってる」とおっしゃるかもしれませんが、そのことを全員がわかっているでしょうか。子供たちは歯磨きという言葉に接した時に歯をピカピカツルツルにするのがメインな作業だと思わないでしょうか。

もちろん歯の表面を適切なブラッシング圧でツルツルに磨くことは悪いことではありません。歯を磨いて歯の表面が滑沢になることにより汚れが付着しにくくなり、虫歯や歯周病の予防効果があります。しかしそれは歯磨きの主な目的ではなく、先ほど述べたように歯の溝や、歯と歯の間、そして歯と歯ぐきの境目の汚れを落とすことがはるかに重要なのです。そういったことをよく理解されている方にとっては「歯磨き」という言葉は問題ないのですが、そうではない子供などにとっては必ずしも適切な言い回しとは言えません。

大人でも「この人は『歯を磨い』ちゃってるな」という方を時々目にします。これはどういう方かというと、前歯の前面や歯の膨らんでいる所は良く磨けているのにも関わらず、歯の溝や、歯と歯の間、そして歯と歯ぐきの境目に汚れが沈着し、虫歯や歯周病になったり、なりかけている方です。

また歯の根元を強い力で磨きすぎると歯の根元が欠けてしまい、いわゆるくさび状欠損と言われる虫歯のような状態になってしまう方もいます。歯の根元もごしごし磨いて歯茎に刺激があった方が磨いた気分になりますので、しばしばくさび状欠損のような状態に陥ってしまいます。

今回は「歯磨きという呼び方はやめよう!」という提言まではいたしませんが、子供を中心に正しい歯磨き方法をこれから習得する必要がある人にとっては歯磨きという言葉の響きに惑わされないことが重要なのではないかなと思いました。

歯みがきの代わりに何と言えばいいかを考え、「歯の汚れ落とし」とか「口の汚れ落とし」なんかがいいかなと思いつきましたが、単純に「ブラッシング」でいいですね。