紹介状は面倒くさい!
誤解を招かないように最初に断っておきますが、私が紹介状を書くのが面倒ということではなくて、紹介状というシステムが患者さんの利便性を損なっているのではないかというお話です。
口腔外科で抜歯したほうが良いだろうと判断されたケースや、嚢胞や腫瘍など当院で治療が不可能な症例は病院の口腔外科に紹介していますが、この時に診療情報提供書と呼ばれるいわゆる紹介状を文書を作成します。この文書は通常患者さんにお渡しして、患者さんご本人に紹介先の病院にもっていっていただくことが多いです。
通常のケースであれば患者さんにとってそんなに負担になるような話ではありませんが、認知機能の低下した方や、お子さんなど保護者の介在がある場合など、紛失や病院に持っていくのを忘れるなどのリスクがあるので、患者さんにご持参いただくシステムが最善とは言えないと思います。それにもし自分がそういう立場になったとしたら初めて行く離れた病院の場合、病院まで行き方を乗換案内アプリで経路と所要時間をチェックして、駅から病院までの道順も確認して、病院の受付時間をチェックして、保険証を忘れず携帯して、その上紹介状も持ったかどうか確認してという風に、これから初めての病院に行って検査などを受けてという緊張感の中で、紹介状を確実に持っていくという普段ならなんともない単純な作業でも余計なプレッシャーに感じてしまうと思います。
一回紹介状を持っていけばそれで当院と病院でのやり取りはとりあえずおしまいということがほとんどなのですが、紹介先の病院から治療方針などについて確認するためもう一度紹介状(診療情報提供書)をもらってきてくださいと患者さんに伝えられる場合があります。郵送や電話でやり取りする場合もありますが、保険診療上の制約などもあり、手書きもしくは印刷した紙媒体を患者さんを介して医療機関同士でやり取りするというケースが多いです。治療するわけでもないのにそのためだけに患者さんが医療機関に出向いてメッセンジャーのような事をしなければならないケースも多々あり、仕事などで多忙な方や、足腰の悪い高齢者の方もいらっしゃる中、こうしたケースは著しく患者さんの利便性を損なっているなと思います。
通常は紹介状の宛名には「〇〇病院 口腔外科 初診ご担当先生」と書いてお渡します。しかし私は紹介状を書いた時点でどのこ病院に行くか決めていない患者さんの場合には病院名を省略して「口腔外科 初診ご担当先生」と書くことがあり、これが問題になったことがありました。ある患者さんにそのように病院名を省略した紹介状をお渡ししたところ、後日とある病院から「ご紹介の患者さんが今うちにいらしているんですが、紹介状にうちに病院名が書いてないため診療が始められません。FAXでいいので病院名を書いて送ってください。」という電話が来たことがありました。なんとも官僚主義的というか融通の利かない話だなとも思いましたが、何のルールだか知らないですが通常の流れとは違うことをしてはいけないケースも世の中にはあります。しかしそんなことで当院からFAXが届くまで患者さんをお待たせして診療を開始しないなんてあきれてものが言えません。もちろんその患者さんをそれ以上お待たせするわけにはいきませんので、あわてて病院名を書いたものをFAXしました。繰り返しになりますが、官僚主義的で融通の利かない事なんか世の中いくらでもありますし、それにいちいち反論してもきりがないので私は従いますが、そのことで患者さんが不便を強いられるのはやはり納得がいきません。
新型コロナウイルスの流行や昨今のデジタル化の流れもあって、ハンコが要らなくなるケースが増えたり、医療機関が行う行政機関への手続きなどがオンラインでできる場面が増えたりと、紙媒体で何かをすることが以前より減りました。それでもやはり紙信仰は根強く残っていて、制度としてハンコを押して紙で提出しなければならない場面はまだまだありますし、上記のようにFAXの使用を強いられる場面にも出くわします。
昔からやってることだし、現在でも常識だから当然という理由で非効率的でも旧態依然としたルールに縛られている側面もありますが、患者さんの利便性を第一にという御旗のもと国や行政が介入して制度を変えるくらいの事をしてもいいのではないかと思います。医療機関同士がいくら無駄な紙によるやる取りをしようが行政も患者さんも関係のないことだと思うのですが、患者さんがそれによって不便を強いられるのはやはり良くありません。
一方でインボイス制度の開始により紙で保存することを禁止するケースが出てくるなど、政府主導で強力にデジタル化を推進している分野もあります。医療や福祉の分野でも何よりもユーザーである患者さんや利用者の利益を第一に、デジタル化を推進し利便性を高めていくための制度や環境の整備を、国や行政は当然ですが、我々医療機関側も考えていかなくてはいけないと思います。