歯科と英語とドイツ語と

そもそもカルテという単語がドイツ語であることから分かるように、伝統的に医学用語にはドイツ語が多く用いられてきました。歯科も然りで、我々歯科医師は今でも仮歯を意味するTEK(テック)という言葉をよく使いますが、これはドイツ語の「temporäre Krone」からきています。しかし近年においてはドイツ語ではなく英語を使おうとする傾向が強く、その代表的な例が以前はよく使われていた患者を意味するドイツ語の「クランケ(Kr.)」で、現在では英語の「ペイシェント(Pt.)」と表現するようになっています。

これはドイツ語を廃止しようとするというよりも、様々な言語で使用される医学用語を英語に統一して、知識を英語に集約して意思の疎通をしやすくし、医学・医療の発展に寄与させようという狙いがあるからのようです。

じゃあ日本の医師や歯科医師は何語でカルテを書いているのかと言えば英語ではなく日本語で書いています。これはなぜかと言うと、カルテに記載する言葉は患者さんにもわかりやすいようにするという狙いがあるからです。

整理すると、外国語を使う場合はできるだけ英語で、しかし患者さんが目にするかもしれないカルテなどの情報は日本語で、というのが最近の流れです。更に言うと学術に用いる場合は英語で、医療サービスとして用いる場合は日本語でという事でしょうか。

ちなみに私が受験したころの歯科医師国家試験には英語の問題は出題されませんでしたが、現在の歯科医師国家試験には毎年1題は英語での問題が出題されるようです。

歯科を含む医学の知識は世界共通ですから、本来それに使用される言語も一つであった方が都合がいいのではないかと思います。私の持論ですが、医学や自然科学、コンピューターサイエンスに関する技術や知識は国による差異は無く、また情報のソースは圧倒的な割合で英語であるため、それらを学ぶ大学の学部での教育や関連する資格試験は英語で行われるべきだと思います。そうすることにより初めて日本がそういった分野で世界と同じ土台の上に立つことができるのではないかと思います。

「じゃあ、あなたも今から歯科医師国家試験を英語で受けなおして試験をパスしてください」と言われるのなら前言を撤回させてください。