歯科とSDGs

SDGs(持続可能な開発目標)については環境問題が大きく取り上げられることが多いですが、全部で17個あるカテゴリーの中の3番目に『すべての人に健康と福祉を』という項目において、医療に関する目標もいくつか掲げられています。その多くが環境問題との関連があるものや、主に発展途上国において取り組むべきの課題が多いようです。

しかし、その中に当院のような小規模な歯科診療所においても取り組むべき目標もあります。

SDGs 3.8

すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。

これを要約すると、「医療を必要としている人が、その人の経済的状況や社会的状況に関わらず、必要な時に簡単に安全で質の高い医療を受けられるようにする」ということだと思います。日本では国民皆保険制度があり、諸外国に比べてその達成度はかなり高いとは思いますが、それでも医療に対する不安は無いとは言い切れません。

実は私の1歳の娘が週末に発熱をし、かかりつけの小児科を受診しようということになりましたが、日曜日は休診で受診できません。じゃあ週明けにでも予約を取ろうということになったのですが、保育園の新たな年度が始まったばかりのこの時期は多くの子供が風邪をひいているようで、なかなか予約も取りづらい状況です。この程度の事であれば、他に小児科を当たってみたり、もっと重篤な状況になれば救急車を呼ぶなりするなど、最終的には何とかなるのでしょうが、少なくともこのケースは必要な時に簡単に医療にアクセスできていない状況に当てはまる思います。

また、何回かあったコロナウイルスの流行の波のピーク時には、多くの病院でコロナ対応で手いっぱいで救急車がたらいまわしになるという話はよく聞きましたが、コロナ流行以前からそういう話はよく耳にしていました。そういった救急車が必要になるほどクリティカルな状況において必要な医療がすぐに受けられないというのは大変な問題だと思いますし、SDGs的にも理想的な状態とは言えないでしょう。

歯科でも診療所によってはなかなか予約が取れなくて困るという話をよく聞きます。私は急性期症状のある患者さんはなるべく早の対処が必要だと思いますので、少々お待たせすることがあっても診るようにしています。しかし、治療して欲しいのになかなか予約が取れない診療所が悪いということではなく、医療機関によってはキャパシティーには限界がありますし、当院でも患者さんが多すぎてパンクすることも起こりうることだと思っています。ただ本当にパンクするまでは急な治療が必要な患者さんはできるだけその日に診療したいと思っています。

また歯医者の治療代が高いという話もよく聞きます。そういう話の多くが往々にして高額になりがちな自費治療に関わる治療代に関するもので、比較的安価で行える保険治療のオプションを示されなかったのではないかと疑われるケースをよく耳にします。自費治療の多くは保険適応の治療よりも質が高く、全ての治療代を誰か善意の第三者が出してくれるというなら全て自費治療にしてもいいくらいです。ただ実際はそうはいかないので、実際は保険治療と自費治療の内容と費用を説明して患者さんに選んでもらう必要があると思います。医療の経済的アクセシビリティーを担保するというのもSDGsの理念の一つだと思います。

医療サービスは他のサービス業と同様に多様な事業者によるサービスを、利用する側が自由に選ぶことができる環境も大切だと思いますが、医療に関してはそれに先立っていつでも必要な時に経済的負担を心配することなく安心安全に受診できることが担保されていることが何より重要であり、遍くそして平等に医療にアクセスできる社会をSDGsは目標にしているのだと思います。