一番地獄だと思った臨床実習

歯学部の5~6学年では多くの時間を附属病院での臨床実習に費やすことになります。臨床実習と言ってもほとんどは下働きみたいなことや病院見学とそれに付随するレポートの作成などが主で、治療の練習をするわけではありません。基本的には立ち仕事か、そうでなければ何もしないで立っている時間が多く、腰が痛くなるなど大変でしたが、中でも一番嫌いというか、地獄だったのが「各科当番」です。

各科当番とは各診療科の窓口で受付と電話番をする実習なのですが、診療科によってはすごく忙しかったり、わからないことだらけでパニックになったりで、精神的に非常に消耗します。他の歯学部では各科当番という名前で呼ばれていないのかもしれませんが、似たような実習はきっとあるのではないでしょうか。

母校での各科当番で特に大変だったのが口腔外科です。何が大変って、口腔外科の診療受付と診療室自体は一か所なのに、部門は口腔外科第一(外1)と口腔外科第二(外2)に分かれていて、受付をするにしても患者さんがどちらの担当なのかを判別して、適切に処理しなけれならないことです。更に悪いことに少なくとも学生の目から見ると外1と外2は敵対派閥のような関係で、例えば各科当番の学生が外1担当の患者さんの受付で困っていても外2の先生は管轄外ということでろくに助けてくれません。その場に外1の先生がいたとしても口腔外科の先生は武骨でぶっきらぼうかつ怖い先生が多かったので、ものをきくにしても戦々恐々です。

また口腔外科の診療室はいつも混雑して待ち時間が長くなる傾向がある上に、腫れた、痛いなどのでイライラしている患者さんも多くいらっしゃったので、要領を得ない学生の受付担当はよく怒鳴られました。絶え間ない患者さんの波、複雑な事務作業、どう処理していいのかわからない電話、イライラする患者さんに加えて大人たちの派閥抗争に巻き込まれているようで大変な思いをしました。

病院の総合受付内でのカルテ出しもやらされたのですが、こちらも口腔外科の各科当番ほどではないにせよ大変でした。総合受付内には先生はおらず、スタッフは全員事務の女性なのですが、皆さん学生にはとても冷たく、わからないことを尋ねてもぶっきらぼうに返事をしますし、狭い室内で露骨に邪魔だという対応をされました。将来の歯科医師とは言え、歯学部や附属病院内での学生のヒエラルキーは最下層でしたのでペコペコ頭を下げながら過ごさなければいけませんでした。

一方、矯正科の診療室では各科当番の学生は何もせず診療室の片隅にある椅子に座って軟禁状態で自習をさせられます。学生が受付に座らない理由を聞くと、矯正科の受付は複雑なので学生に担当させると混乱や間違いをもたらすからとのことでしたが、口腔外科の受付だって十分複雑で学生が担当することによって混乱や間違いをもたらしていましたから、やらされている学生からしたらもう何のことやらという感じでした。

各科当番が歯学教育に本当に必要だったかどうかは怪しいところですが、少なくとも精神の鍛練にはなったということでこのお話は幕引きです。