不器用な人は歯医者になれないのか
そんなことはありません。不器用な人でも歯医者になれます。
歯学部の入学試験では不器用かどうかの考査はありません。ということは不器用な人も歯学部に入学するということです。さらに不器用であることが原因で留年する人もいませんし、不器用が原因で大学を辞める人もいません。国家試験も実技試験がありませんから理屈からすれば不器用でも歯科医師になれます。そしてさらに言えば、歯科医師のキャリアを歩み始めてから不器用が原因で歯科医師を辞めた人というのも聞いたことがありません。
歯科治療において重要なのは器用か不器用かではなく、診査・診断から治療計画の立案、そして施術と施術後のフォローアップまでの過程において、必要なステップを飛ばすことなく確実に行うことなのです。施術を行う者が器用か不器用かにその結果が大きく左右される技術があるとしたら、それは臨床応用に耐えない確立されていない技術であると言えます。
そして主にそのステップと理屈を学ぶところが大学なのです。もちろん大学で学ぶだけでは足りないので、歯科医師は卒後に自力で、主に応用的な技術や新しい技術を中心に学ぶことになります。
実際に不器用な人は大学の同級生に何人かにいました。そういう人がまずつまずくのが歯の形を彫刻する解剖学の実習で、不器用な人の壊滅的作品をよく目にしました。そんな人でも人の助けを得たりしてなんとかクリアしていき、その後の手先を動かす実習も苦労しながらもこなしていったようです。
考えてみれば歯科の技術には生まれながらの絶対的センスが求められるものは存在せず、一つ一つの技術はトレーニングと場数をこなせば誰もが習得できるものばかりだと思います。しかしその種類も多いですし、なにより座学で学ぶべき事項が膨大なので決して簡単なことではないことは確かです。
とは言えやはり器用か無器用かは歯科医師の間でもあるわけで、その差は経験年数の浅いうちは治療の速さというところに現れてくるのではないかと思います。ただ先ほども触れたように、不器用であっても必要なステップを正確にこなすことにより確実な治療が行えます。逆に言えば手先が器用な歯科医師でもこのステップを正確に行わなければ治療がうまくいかない可能性があるということです。