技術の進歩で歯医者は痛くなくなったというのはウソ

理由は技術の進歩ではない

「最近の歯医者は痛くないよね。技術が進歩したおかげだね。」と言う話を時々耳にしますが、理由が違います。技術の進歩というよりはじっくり時間をかけて治療するようになったのが痛みが少なくなった大きな要因です。

近年の歯科治療では状況に応じて電動の麻酔器や表面麻酔、極細の麻酔針など使用して麻酔し、できるだけ患者さんが痛みを感じないように治療を進めるのが通常になっています。

しかしそういった器具や薬剤は割と昔から存在します。決して突然近年になってから痛みを少なくする画期的な技術ができたわけではありません。ただしそれらの器具や薬剤を使ったり、患者さんができるだけ痛みが無いように配慮するには丁寧に時間をかけて治療する必要があります。昔の歯医者はそれをしないことが多かったので痛かったのだと思います。ではなんで昔の歯医者は時間をかけて治療しなかったのでしょう。

昔は歯科医院の数が少なかった

今から40~50年前までは歯科医師の数が少なく、どこの歯科医院もすごく混んでいました。歯科医だった私の父曰く、一人で1日50~60人の患者さんを診ることもざらだったといい、そうなると実働8時間だとして一人あたり10分足らずで治療しなければならなくなります。もうちょっと働く時間を長くしたところで15分がいいところでしょう。診療補助をスタッフにお願いしたとしても十分な時間は取れないことは明らかです。

私は通常麻酔をかけて治療する時は表面麻酔に2~3分、麻酔に最低5分は待つことにより十分に麻酔を効かせるようにしていますので、1日60人を診る治療だと麻酔だけで終わってしまうことになります。昔の歯科医師はこの時間を短縮して十分に麻酔が効く前に治療をしてしまうか、それほど痛くないだろうと判断した治療では麻酔自体を省くかして治療時間を短くしていたのでしょう。そうしないと患者さんをさばけないからです。治療が終わって歯科医院から出る頃に本格的に麻酔が効いてくるなどと言う話も昔話として聞いたことがあります。

当時はそうした事態を避けるために自分の他に歯科医師を雇おうにも歯科医師不足で歯科医師は雇えません。患者さんも痛い歯医者は嫌だからと別の歯医者にかかっても患者さんでごった返す状況は同じです。だから昔の歯医者は実際に痛かったでしょうし、その記憶が皆さんに残っているのだと思います。

現在はじっくり時間をかけて治療

現在ではそのような歯科医師不足の状況も解消されたことにより、歯科医師が1日に診るのは多くても20~30人くらいで、じっくり時間をかけて治療をすることができ、痛みを最小限に抑えて治療することが可能になったのです。