歯学部は低偏差値でバカ?

過去には定員割れの問題が

もう10年以上前になりますが、私立の歯学部の定員割れが話題になったことがありました。それに先立って歯科医師のワーキングプア問題がマスコミ等で報じられ、この報道による急激な歯学部の人気低下が定員割れの原因の一つになったと言われています。現在では当時のような多くの歯学部で極端な定員割れを起こすような状況は改善されていますが、少なくとも私立の歯学部は国立の歯学部、また私立の医学部と比べると入試偏差値が低く、難易度の低迷は今でも続いており、いわゆるボーダーフリーの状態の歯学部もあります。

能力の低い歯科医師がいてはならない

問題は単刀直入に言うと、「そんな低い偏差値の大学を出た人が歯医者をして大丈夫か」と言うことです。

歯医者は医者と比べて複雑な事を考えて治療するわけではないし、人の生死に関わるようなことはしないので多少頭の出来が悪くても大丈夫・・・ではありません。

歯科医師は医師と同様、大学で過ごす6年の間に基礎医学と言うベースの知識の上に臨床医学を学び、国家試験に合格しないといけません。

また、歯を削って型をとって銀歯を詰めるだけが歯科医師の仕事ではありません。 患者さんの訴えに対して適切な診査をし、またその結果のアセスメントを行い、それをもとに診断を行った上で治療計画の立案をしてから治療や投薬などを行い、その後のフォローアップまでを行うという手順は医師が行う診療手順と全く同じです。何より歯科口腔外科では医師と同じようにがんの手術などもしますし、したがって場合によっては人の生死に関わることになります。能力的に中途半端な歯科医師がいては困るわけです。

国家試験が歯科医師の質を担保

しかし歯科医師にバカはいません。それを主に担保しているのは歯科医師国家試験です。

2000年代に入る頃までは歯科医師国家試験の合格率は大体90%程で推移し、問題正答率が60%を超えていれば合格というものでした。その頃は私立歯学部の定員割れの問題もなく、ある程度の倍率の入試で学生の「質」もある程度保証されていたでしょうからそれでも問題なかったのだと思います。

しかし1970年代以降に全国の歯学部の定員が大幅に増えた結果、2000年を迎えるころには歯科医師過剰が問題視されたことから、国の方針として国家試験の合格者を減らす方針になり、一気に合格率は75%程度に低下しました。近年においては更に低下し大体65%ほどになっています。方法として理想的とは言えませんが、少なくともこの合格率の低さ(=国家試験の難しさ)が歯科医師の「質」を担保している一つの要因となっています。

合格率65%ということは、35%の人は不合格となるわけです。その人たちは翌年にまた国家試験を受験することはできますが、受験回数を重ねるたびに合格率は低くなる傾向にあり、毎年落ち続けてあきらめて受験をやめる人がたくさんいます。国家試験の合格率を上げるためにも各学年で留年を大量に出す大学が多く、やはり卒業できずに諦めて大学を辞める人もたくさんいます。

大学入試で大勢が決まるのは医師くらい

医学部は主に大学入試という入り口で不適格者を除外するのに対し、歯学部は途中と出口、つまり大学の進級と国家試験で不適格者を除外していると言ってもよいかもしれません。

改めて考えてみれば大体の運命が入り口で決まるのは医師くらいで、法科大学院の制度がある弁護士は特殊な例として、会計士や税理士、司法書士などを例にとってみても、大学の偏差値は大勢に関係なく、最後の資格試験の合否が運命を決める資格がほとんどです。歯科医師になるには出口に加えて途中にも関門があり、それが私立の歯学部の入試偏差値の低さをカバーしていると考えることもできます。

偏差値も評価指標の一つ

しかし大学の入試偏差値が意味がないとは思いません。偏差値の高い大学を卒業しているということはそれ自体が優秀であることを証明していますし、ブランドであり、価値だと思います。仮に自分が弁護士さんに相談しようとする時、二人の弁護士さんが同じ分野を得意とし、同じような所に事務所を構え、また同じような料金だったとして、片方が東大卒、他方が聞いたことのない大学卒だとしたらきっと東大卒の弁護士さんにお願いすると思います。しかし、例えば自分が遺産相続について相談しようとするときに、どこの大学出身であっても刑事事件専門ですという弁護士さんにはお願いしないと思います。

歯科医師も同じだと思います。歯科医師も一般歯科から口腔外科、矯正歯科、審美歯科、高齢者に対する訪問歯科、小児歯科等様々な分野の歯科医師がいて、いろんな場所でいろんなスタイルで診療を行っています。歯医者さんを選ぶときには目的に合った、通いやすく好都合な、心地よい歯医者さんを選べばいいと思います。もちろんその要素の中にどこの大学出身かということもあっていいと思います。 歯科医師の出身大学は歯科医院を選ぶ際に考慮する数ある要素のうちの一つという風に捉えれば自分にとっての良い歯科医院選びの一助になるのではないかなと思います。