脳に菌が回る

虫歯を放置すると最悪の場合、菌が脳に回って死に至るなどという話がまことしやかにインターネットなどで語られることがあります。果たしてこれは本当なのでしょうか。

少なくとも口の中にいるような細菌が脳だけをピンポイントで狙って侵入するということはありません。

虫歯を放置すると歯の根に膿を持つことがあります。多くの場合、これを放置すると膿が外に出ようとして、歯肉に穴を空けて膿が出てきます。しかし、まれに膿が歯肉から排出されずどんどん中に顎に溜まることがあり、それが顎の中だけで納まらなくなると、血流に乗って菌が全身にめぐることになります。これが菌血症といわれる状態です。菌血症が重症化すると敗血症に至り、ショックや多臓器不全などで死に至ることがあります。ですから非常にまれなことではあるとは言え、虫歯が原因で死ぬことがあるというのは本当です。

脳というのは脳血液関門といわれる鉄壁のバリアで守られており、急性期において細菌がこのバリアを破ろうとしている段階でもう相当やばい状態なので、菌が脳に回って死ぬという表現はいずれにしてもいささか不正確な表現です。言うなれば「菌が全身に回って死に至る」の方がより正確な表現です。

乳歯以外の歯を抜歯をしたときは原則、抗生物質(化膿止め)をお出ししています。これはもちろん傷口が化膿しないようにする目的もあるのですが、菌血症の予防の目的もあります。抜歯するとかなりの確率で一過性の菌血症になると言われていますが、健康な人であれば抗生物質を飲まなかったからと言って敗血症に移行して死に至るなどということはまずありませんのでご安心ください。ただ、糖尿病など免疫機能が低下した方などは重症化のリスクがあるので注意が必要です。また健康な人でも菌血症になると発熱などの症状も出ますし、心内膜炎という病気を惹き起こすことがあるので、この予防のためにも抗生物質の投与は重要なことなのです。