マスコミの表現は不正確な場合がある
先日「歯医者で絶対に受けてはいけないある治療」というタイトルで、ある歯科医師をインタビューする形式の記事を見ました。しかしインタビューの中でその歯科医師は「絶対に受けてはいけない」とは言っていませんでした。
記事の内容は歯の神経を取る治療は治療成績やその後の経過がすごく良いわけではないので、むやみに行うべきではない、というような趣旨でした。これは私自身もそう思いますし、多くの歯科医師もそういう認識でいると思います。
しかし、神経のある歯が虫歯などで歯の中まで細菌が侵入し、噛むと痛み、何もしなくてもズキズキと痛み夜も眠れない、という状態になれば神経を取る以外に治療の選択肢はありません。記事の中でもその先生でさえ年に数回はこの治療すると述べていました。そうしないと痛みは取れないし、治らないからです。
これをもってして「絶対に受けてはいけない治療」と題するのはいかがなものでしょうか。正確を期して「むやみに受けてはいけない治療」にした方が本当は良いはずですが、それでは耳目をひかないので「絶対に」という言葉を使ったのでしょう。
趣味や娯楽の分野などでは人々の注目を集めるために多少不正確でも強く目立つ文言を使うことを容認できたとしても、健康にかかわる事柄に関しては正確性を大事にしてもらいたいところです。
医科の分野で耳にするのは「ステロイドを絶対に使ってはいけない」や「抗がん剤を絶対に使ってはいけない」ではないでしょうか。しかしそれらも真実をひもとくと「副作用などの問題もあるので、症例を選ばずむやみに使うとデメリットが大きかったり、逆に症状を悪化させたり、不幸な転帰をたどたったりする場合も中にはあるので、治療法として検討する場合はメリット・デメリットを評価し、他の治療法も選択肢に入れつつ慎重に判断したほうがよい」ということが多いです。
「絶対にしてはいけない」とどこかで聞いた患者さんがそれを信じて医療担当者を困惑させるという話はよく耳にします。患者さんがこういった偏った表現に翻弄されないための防衛策は「絶対に」のように断定的な言葉を見たら注意するという事でしょうか。 ことに生命や健康に関する情報に関しては、記事を書いたり報道する人が事実を正確に伝えるべきなのですが、残念ながらそれがかなわないのであれば自衛するしかないのが現状だと思います。