「印象」「動揺」歯科での意味

医療用語には一般的に意味するのとは別の意味で使用される単語がよくあります。

歯科で代表的なのが「印象」です。普通は印象と言えば人が何かに対して受ける感じの事ですが、歯科では歯の型をとることや、型をとったそのもののことを印象と言います。例えば「今日は上顎の印象を取る予定」とか、「さっきの〇〇さんの印象に石膏を注いでおいて」などという風に使います。これはおそらく英語のimpressionを訳すときに直訳してそのまま印象としたのが元になっていると思います。英語のimpressionには圧を加えて型をとるという意味があるようですが、日本語の印象には型をとるという意味は無く、歯科特有の使い方と意味になっていると思います。

また「動揺」の使い方も独特で、歯がグラグラすることを歯科では動揺と言い表します。「2番は動揺があるので隣在歯と固定する」とか、「動揺度1の歯が二本あるくらいなので、また歯が抜ける心配はない」のような形で使います。普通は人の心が揺り動かされることを動揺と表現するのが普通だと思います。辞書で調べてみると、動揺には物理的に物が揺れ動くという意味もあるようですが、私個人的に歯科以外でこの使い方をしているのを聞いたことがありません。辞書には載っているくらいなので昔は一般的に使われていたのかも知れません。

医療用語にはあたかも元からあったかのような日本語を新たに創造してしまう場合もあります。「至適」なんかが良い例かもしれません。至適の意味はほぼ最適と同じだと思って頂いてよいと思いますが、最適より幅があるようなイメージがあります。正常範囲の中に至適範囲があり、さらにその中に最適があるようなイメージです。点である最適値を目指さないでも至適範囲に入っていれば十分OKです、というような感じでしょうか。「至適血圧」や「至適pH」のような形で使われます。

今回紹介したのはほんの一例ですが、もともと外国語だったものを直訳したり、あるいは逆に変に意訳したり誤訳したりして独特な単語や単語の使い方が多いのが医療系の専門用語の特徴かもしれません。