職業として歯科医師が医師より優れる点

統計の数値を見ると、歯科医師の平均収入が医師よりも低いため、医師の方が魅力的だと思われることが多いです。そうしたことから親と同じ歯科医師を目指すという場合を除いて、最初から医師ではなく歯科医師になることを目指す人はごく少数派です。しかし収入を度外視して純粋に職業として歯科医師を見た時に、医師より優れているのではないかと思う点が何点あります。

一つ目は歯科医師は当直が無いということです。私の妻は病院に勤める内科の医師なのですが、歯科には当直が無いことをうらやましがられます。もちろん歯科には入院患者を抱える病院の口腔外科という部門があり、そこでは病院での当直勤務も当然あります。しかし、全歯科医師のうち、病院口腔外科に勤務するのはほんの数%ですから、ほとんどの歯科医師は当直は無いと言っていでしょう。

当直勤務は大変です。例えば妻が当直するパターンとして例を挙げれば、月曜日の朝から通常勤務を行い、その日の夕方まで働き、夜はそのまま当直勤務に入ります。当直勤務では入院する患者さんに必要が生じればその対応を行うほか、夜間救急の患者さん対応を行います。もちろん平穏な夜は何時間かは睡眠をとることはできますが、ひっきりなしに救急の患者さんが来ると朝まで全く眠ることはできません。朝を迎えたら帰宅できるわけではなく、翌日火曜の昼間はまたそのまま通常勤務をして、夕方にようやっと帰宅できるのです。30何時間働きっぱなしです。そしてその翌日水曜日はまた朝から通常勤務。さすがに水曜の夜もまた当直ということはないようですが…。

もちろんこういった当直勤務の体系は病院によって違うかもしれませんが、妻の勤務先の例は決して特殊ではなく、日本の病院では普通に行われていることです。当直が月に何度も、場合によっては週に複数回ということもあるということですからハードです。歯科はこのハードな当直が無いことが医師に比べた時の最大の利点かもしれません。

歯科医師の二つ目の利点ですが、独立開業できるチャンスが多いという事でしょうか。歯科は先ほど触れたように入院患者を持つことが少ないので、入院施設を持つ必要性が少ないです。入院施設を必要としないということは比較的少ない資金と人員で開業ができるということです。病院を作るのと歯科医院を作るのでは必要な資金も人手もケタが違ってきます。もちろん医師でも外来のみの診療所であれば少ない資金で開業することはできますが、需給の面でも仕組みの面でも歯科に比べると開業のハードルは高いと思います。

そういった理由で、組織から独立して一国一城の主になりたいという願望を持つ者にとっては医師より歯科医師になることの方がメリットがあるとも言えます。もちろん医師であっても歯科医師であっても開業するには必ず大きなリスクを伴います。ほとんどの場合、開業するには最低でも数千万円単位の資金が必要で、その大半は借金で賄うことになりますし、常に潰れるというリスクにさらされる上に、医療機関の管理者としての責任や、雇用主としての責任も生じます。しかしながらそういうリスクを許容した上で事業主になりたいと思う人にとっては、歯科医師の方が開業のハードルが低くメリットはあるかもしれません。

三つ目としては、これもよく妻に言われることですが、医師は生死に関わったり、重大な後遺障害を残すことがある疾患に接し、様々な面においてセンシティブな対応を迫られることから、歯科医師より精神的負担が大きい傾向があるということです。医師におけるセンシティブな対応とは、もちろん診断や治療法の選択、手術などもそうですが、患者さん本人のみならず、患者さんの家族にも説明をして理解を得なければならない場面が多く、説明責任という面でセンシティブかつ適切な対応をしなければなりません。当然、歯科の場合も治療に責任を持ち、患者さんに十分な説明をしなければならないことは同じですが、医師に比べると重大な疾患に接することが少ないことから、ご家族にまで機微に触れるような説明をする状況になることは少ないです。そういった面で歯科医師が医師よりストレスが少なく職業として好ましいと判断する人もいます。私の妻は娘には医師と歯科医師のどちらかになるのであれば歯科医師になって欲しいと言ったことがありますが、そういったことが理由だそうです。

医師と歯科医師、何かと収入と入試偏差値という観点でばかり語られることが多いですが、これから医師か歯科医師のどちらかを目指そうという人には、こうした実務的な観点も進路を選択の材料に加え、よく二つを精査して進路を選択していけばよいのではないかと思います。