虫歯菌から赤ちゃんを守ることは可能か

近年は虫歯がミュータンス菌と呼ばれる虫歯菌の感染によって引き起こされるという認識が徐々に浸透し、赤ちゃんに虫歯菌をうつさない試みを実践している保護者も増えてきました。

1歳半から2歳半までの時期を虫歯菌の感染しやすい「感染の窓」と呼び、この時期を中心に食器の共有を避けるなどの取り組みにより、その後の虫歯の発生を減らそうとするものです。

具体的な方法として、スプーンや箸、皿といった食器の共有を避ける他に、熱いものを口でフーフーして冷まさない、口に入れたものを与えない、タオルを共有しない、キスをしないなどがあげられます。

しかしながら、虫歯菌を1匹も赤ちゃんの口の中に入れさせないくらい完璧に実行するのは至難の業です。我々が今回のコロナウイルス感染症の流行で学んだことは、見えない感染源から身を守るのは簡単なことではないということです。もちろんコロナウイルスと虫歯菌とではウイルスと細菌という違いもありますし、感染の仕方も全然違いますが、見えない敵という点において共通しています。自分の子を相手に常にマスクをしているわけにもいきませんし、赤ちゃんと親御さんとの日常生活において事あるごとに食器、家具、おもちゃから床に至るまで消毒作業をするわけにもいきません。ほとんどの大人が「虫歯菌患者」もしくは「虫歯菌陽性者」であると考えれば、赤ちゃんを虫歯菌から100%ブロックするのは途方もないことだと思います。

100%が無理であるならば、できるだけその機会を減らし、感染するにしてもその量をできるだけ少なくなるよう努めるのがよいと思います。親御さんに虫歯があれば治療し、口腔清掃状態を清潔に保つことも重要です。そうすることにより虫歯菌のうつる機会も量も減らすことができます。

自分は気を使って子どもに虫歯菌がうつらないようにしているのに、お義母さんが自分の使ったスプーンで食べ物を与えた、チューをした、なんていう嫁姑問題などもよく耳にします。祖父母世代の虫歯菌への理解ももちろん重要ですが、子供の健やかな成長のためにも親子間、祖父母・孫間の愛情やスキンシップもまた重要だと思います。100%が無理である以上、神経質にならずに、周りの理解を得ながら、「うつらないに超したことはない」くらいの姿勢で虫歯菌感染予防に取り組むのが良いと思います。

歯科医師は赤ちゃんであっても虫歯菌はすでにいるものとして診察し、虫歯の予防を考えています。大切なのは定期的に健診を行うことであったり、そこで行われる指導に基づく歯磨きなどの口腔ケアであったり、また授乳や食事や飲み物を取る時間やその種類などをコントロールすることであったりするわけです。そうすることにより虫歯菌が口の中にいたとしても虫歯の発生を防ぐことは可能です。

赤ちゃんへの虫歯菌感染予防に取り組むことが前提であるかのように書いてきましたが、ご家庭のライフスタイルやスキンシップを重要視して、取り組まないのも選択肢だと思います。その場合でもやはり、保護者が子供の口の健康に関心を持ち、定期的に検診を受けさせることが必要だと思います。