死体照合に歯型は使わない
使うのは主にカルテ
身元不明死体の身元確認に歯型を使うというような表現をされることがありますが、歯型は使いません。使うのは治療履歴やレントゲン写真です。
「取った歯の型は保存してある?」でお話ししたように歯科医院では原則的に歯型や模型は保存しません。身元確認の資料として使うのはカルテに残されている初診時の歯の記録、その後の治療歴、レントゲン写真などです。これらとご遺体の口の中の状況を照合して本人であるかどうかを確認します。
32本の歯それぞれについて判定
具体的には32本の歯についてカルテの内容とご遺体の状況を比較・判定していきます。判定は一致、矛盾しない不一致、矛盾する不一致、判定不能の四つです。
「一致」はカルテ上もご遺体もともに歯が同じ状態。例えば治療痕がない健康な歯であるとか、銀歯が入っているであるとか、歯が無いとといった状態で両者が一致している場合です。
「矛盾しない不一致」は時間の経過とともに起こりうる相違がある場合です。例えば「カルテ上は歯があるが、ご遺体には歯がない」「カルテ上は治療痕のない歯だが、ご遺体には銀歯が入っている」「カルテ上は銀歯が入っているが、ご遺体の歯は銀歯がなく虫歯になってる」「カルテ上は銀歯だが、ご遺体にはセラミックが入っている」「カルテ上には歯が無いが、ご遺体はインプラントが入っている」などです。
「矛盾する不一致」は時間が経過しても起こり得ない相違がある場合です。 例えば「カルテ上には歯はないが、ご遺体には歯がある」「カルテ上には銀歯が入ってるが、ご遺体の歯は治療痕がない」「カルテ上は歯全体をかぶせる銀歯だが、ご遺体は部分的な銀歯が入っている」などです。
「判定不能」は親知らずが埋まっている場合など、もともとカルテに記録が残されていない場合などです。
32本の歯すべてについてこのいずれかの判定を行い、同一人物であることに矛盾がないか、疑いがある場合は本人である可能性が高いか低いかを判定します。
「矛盾しない不一致」は「一致」に近い扱いですが、「矛盾する不一致」はが複数の歯にある場合は同一人物であることにかなり疑いがも持たれます。
完全一致でも疑いがある場合も
特殊なケースとしては、若い方のご遺体などで、すべての歯が欠けずに治療の痕がない場合で、カルテ上も同様にすべての歯が健康だと、すべての歯が一致はしているものの信頼性にやや欠けます。同様にカルテ上もご遺体も全く歯が無い状態も信頼性に欠けます。複雑な治療歴があるほど照合の確度が上がると言えるかもしれません。
意外に地道な作業
歯を用いた身元確認は昔ながらの警察の捜査のように「地道に証拠を積み上げて」判定するもので、一発で100パーセントの確度で白か黒かを判定する科学的な捜査とは少し異なります。