ゴッドハンドと誤解されるパターン
親知らずの抜歯などの際に、すぐに抜けて術後も痛みが無く、患者さんに神業と思われるのは歯科医師としては気分は悪くないことです。しかし処置が痛みもなくすぐ終わったからと言ってその歯科医師がゴッドハンドであるとは限りません。歯科の処置には誰がやっても大概うまくいく処置があるからです。
よくあるのは、別の歯科医院で下あごの骨の中に埋まった親知らずを時間をかけて大変な思いをして抜いて、術後にも腫れや出血、痛みなどで苦しんだ経験のある患者さんが来院し、上あごの親知らずを抜歯したらあっという間に抜けて術後の痛みも全くなかったという理由でゴッドハンドであると思われるパターンです。
実は上あごの親知らずを抜くのは技術的にも簡単で、通常は抜き始めたら1~2分で抜ける上に術後に痛みが出たり腫れたりすることがほとんどありません。私も歯科医師として働き始めた頃、簡単に抜け、術後に痛みもないことから患者さんに感謝されるので上あごの親知らずの抜歯は好きな処置でした。
それに対して「下顎埋伏智歯抜歯」と呼ばれる下あごの埋まった親知らずの抜歯は処置時間も長いですし、術後のトラブルも多く、上あごの親知らず抜歯とは全く異なります。同じ抜歯ではあるものの、患者さんの身体的負担や技術の難易度も異なりますから両者を比べて技術の優劣を見極めることはできません。
同じような状態の左右の「下顎埋伏智歯」をそれぞれ違う歯科医師に抜いてもらった場合は技術の比較ができると思いますが、本当に同じような状態かどうかは抜いてみないとわからないところもあり、やはり患者さんの立場から技術を正確に評価することは難しいと思います。
似たようなことは抜歯以外でもあります。同じように歯を削ったのに痛みがある場合とない場合がありますが、これは歯の神経が有るか無いかや、削る深さに左右されます。また麻酔がよく効く場合と効かない場合がありますが、これは上あごか下あごか、または炎症が有るか無いかなどに左右されます。他にも似たように見えても処置時間や技術の難易度、痛みなどが大きく違う処置はたくさんあります。
それでもあえて技術を比較したいということであれば、複数の歯科医師にそれぞれ何度も受診し様々な処置を受けてみればなんとなく違いは分かってくるのかもしれません。
じゃあ結論としてゴッドハンドはいないのかというと、専門誌などを見ているとこの先生はゴッドハンドだなと思う人は時折見かけます。ちなみに私自身がゴッドハンドであるかどうかはおこがましくて言えません。