歯科治療に断言なし

「絶対に治ります」
「痛みは明日までに必ず無くなります」
「今月中に必ず治療は終わります」

患者さんとしてはこのように断言されると安心なはずですが、歯科治療においては「絶対」「必ず」はあり得ません。

法律の建付けでは、医療においては医師と患者さんの契約形態は請負契約ではなく準委任契約になっており、 依頼された仕事を完成さるという契約ではなく、依頼された行為を提供をするという契約形態であり、従って法的には治療の結果は保証されません。これはおそらく生体という不確実性を考慮しての事だと思われます。極端な例かも知れませんが、末期のがん患者や瀕死の重傷の方を死なずに退院させるという約束は成り立たちません。

歯科の治療も同じです。例えば歯の神経の治療をしたとして、「この痛みは今日中に無くなりますか」と聞かれたときに私が思うのは「まあ95%位の確率で痛みは無くなるとは思うけども …。」という具合です。100%はないのです。

しかし「絶対良くなります」と言い切った方が患者さんは安心ですし、一般的に人気も出やすいです。でも言い切ってしまう先生はギャンブラー気質だと思います。どんなに名医でも治療結果に100%はあり得ないからです。

95%の確率の時、断言を避けることは残りの5%が起こった時に備えられる一方、あやふやで煮え切らない先生だと思われるリスクがあります。断言をすると頼もしくて安心できる信頼のおける先生だと思われる一方、5%の事が起こった時にその信頼が一気に崩壊する可能性があります。

歯科医療はライフサイエンスの応用分野です。歯科医師がサイエンティストであるならば客観的事実に誠実であるべきだと思うので、私は不確定な事柄に対しては断言は避け、できるだけ正確に物事をお伝えするようにしています。

しかし、患者さんと歯科医師という二人の人間が問題を共有し解決していこうという時に、不安な気持ちでいる患者さんに対して安心をもたらすということも時には必要ですので、断言して安心してもらおうとすることを全否定はしません。ただ状況を問わず、むやみやたらに断言しきってしまうのはいかがなものかと思います。

患者さんとしても、不確実な事柄に対して断言されたときに、それが自分を安心させようとして言っているのか、ただ単に自己承認欲求を満たし信用してもらいたいがために言っているのかを見極める必要があるのかもしれません。

もちろん健康保険がきくきかないなど、単純な事柄に対しては断言できるものもありますのであしからず。