虫歯が無くなったら歯医者は壊滅するか

「虫歯を無くす薬は存在するが、虫歯が無くなったら歯医者が失業するので隠している」のような陰謀論を時折目にしますが、そのような薬は現在のところありません。それに近い薬があるとすればフッ化ナトリウムを始めとしたフッ素化合物だと思いますが、虫歯を無くする効果まではありません。

フッ素入りの歯磨剤の普及や口腔衛生意識の高まりにより、特に小児の虫歯はこの40年ほどで劇的に減り、例えば12歳の虫歯の本数は5分の1程度になるなど、小児における虫歯はまさに壊滅状態です。子供ほどではありませんが成人の虫歯も年々減少を続け、虫歯は減る一方です。

しかし歯医者は壊滅していません。このところ歯科医院数は横ばいで推移しているものの40年前と比べると大幅に増加しています。大幅に虫歯が減ったはずの小児を中心に診るこども歯科のような名前の歯科医院も最近よく目にするようになってきました。なぜでしょうか。

それは歯科医院における定期健診やフッ素塗布、歯磨き指導などが虫歯の減少に大きく寄与しているからです。歯科医院はできた虫歯治療をするという役割から虫歯を予防するという役割にシフトしてきていると考えることができます。それゆえ虫歯が減っても歯科医院の需要は減ってきていないのです。歯科医師として言うのも手前味噌ですが、きっとフッ素だけでも虫歯を減少することはできたと思いますが、虫歯の減少を強力に後押ししたのが歯科医師です。

子供の虫歯を壊滅に追い込むことができたように、将来的に大人の虫歯も壊滅状態に追い込むことは可能だと思います。しかしやはりそのためには歯科医院での定期健診やブラッシング指導など予防に対する取り組みが必須だと思います。虫歯ができないようにするのが歯科医師の仕事の一つでもあるので、将来にわたっても虫歯が無くなったからといって歯科医院が壊滅するということはないと思います。

歯科医師の役割は虫歯を治すだけではなく、その予防や歯周病の治療や口腔外科や矯正歯科など幅広い分野に及んでいる上に、飲んだり塗ったりするだけで虫歯を完全に予防したり治療したりする薬の開発が難しい現状があるので歯科医師の仕事がなくなるという未来は今のところ想像しがたいです。