院長先生に診てもらいたい!

複数の歯科医師がいる歯科医院では「院長先生に診てもらいたい」という要望をする方がいらっしゃいます。当院では現在のところ歯科医師は院長である私しかおりませんので、幸いなことにそういったご要望に100パーセント応えられる状況ではあります。

私の父と二人体制で診療をおこなっていた頃、院長であった父に診てもらいたいという要望をなさる患者さんが一定数いらっしゃって、当初は可能な限り要望通りに院長が治療を担当していました。当時、院長ではない私は院長より自分の方が技術的に優れている治療もあると思っていましたので、必ずしもいい気分ではありませんでしたが、特に弊害が起きるわけでもないので院長の治療を希望する患者さんの意向に沿うようにしていました。

しかし院長が高齢になるにつれ、体力的にも仕事を減らす必要がありましたし、私は時期が来れば医院を継承して院長になる身でしたので私の仕事も増やす必要が出てきました。そんな中で本当は院長による治療を望んでいる患者さんを私が担当することも増えていったのですが、そういった患者さんの中にはやっぱり院長先生がいいと帰り際に受付で訴える方もいたようですし、私が治療をする際に露骨に院長の治療の方がよかったという言動をされる方もいました。私としては複雑というか、納得のいかない話ではありましたが、長年培った信頼に勝るものはないと納得しなおすしかありませんでした。

では実際に院長による治療は良いのでしょうか。院長の治療が良い点があるとしたら2点ほど挙げられます。一つは院長であればその医院の中では歯科医師としての経験が一番長い可能性が高く、その経験に基づいた質の高い治療を受けられる可能性があるということです。もう一つは、院長は医療機関の長でありつつも経営的な責任も負っているために、その場しのぎではない、誠意がある対応が期待できるということです。

しかしながら、責任者というものは医療機関の長に限らず、多岐にわたることに関わり、気を配り、時間を費やさなければなりません。歯科医院であれば院長は患者さんの治療だけではなく、売り上げや支出、雇用、薬品や資材の管理、役所に提出する書類等の管理、地域との関わりなど、様々な事に関与しなくてはなりません。あえて穿った言い方をすれば治療ばかりやってられない状態とでも言いましょうか。これは医院の規模が大きければ大きいほどこの傾向も大きくなっていくと思います。中には日本全国、だいたいの100万都市に分院を持つような巨大医療法人の理事長をしている歯科医師もいますので、その多忙さたるや想像に難くありません。

ただそれも一面であり、患者さんの治療にも全力で取り組みながら、医療機関としての長としての責任も果たす歯科医師もたくさんいますから、院長だから良いとか悪いとは一概には言えないと思います。

それでも少なくとも自分が例えば内科であるとか耳鼻科であるとか整形外科の医院を受診しようとするとき、院長の診療じゃなきゃ嫌だとは思いません。一番大事なのは患者さんと医師の信頼関係を築くことだと思います。院長であるかどうかや、経歴がどうであるかなどはその次に勘案すべき事項なのではないかと個人的には思います。