口をお預かりして治療出来たらいいのにな
患者さんにとって、治療が痛くないことや、たくさん虫歯があっても一回行けば全部治療が終わる、などは夢のような治療だと思います。もちろんそれが可能であれば歯科医師にとっても夢のようなことなのですが、歯科医師視点ならではの「あり得ないけど、こういう世界線だったらいいのにな」という荒唐無稽な想定をいくつかご紹介します。
まず標題にあるように口をお預かりして治療できたら最高だなと思います。口をお預かりして治療できれば、患者さんの痛みや、口をずっと開けていなければいけない事への気遣いをする必要がなくなります。また普通の治療では30分とか1時間という限られた時間で一回の治療を済ませなければなりませんが、もし口をお預かりできれば例えば1週間とか2週間という期間内に作業を済ませておけばいいので大変助かります。そうすると締め切りに追われるという弊害がありますが、逆に言うと現実世界の歯科医師は締め切りに追われるということが少ないということも言えるでしょうか。
次に唾液が無い世界があったらいいなと思います。歯科治療は唾液との戦いでもあります。唾液にはおびただしい数の細菌が含まれています。根管治療の際にはでき得る限りの無菌状態が望まれますから、唾液はない方がいいのです。また唾液で濡れていると接着剤も付きません。歯科医師は治療中にいかに治療中の歯が唾液などで濡れないかに常に注意をしていますので、そういう意味で言えば唾液なんかない方がいいのです。
また舌もない方がありがたいです。歯を削って治療する際は舌は邪魔で仕方ありません。舌に切削器具が当たると舌を傷つけてしまいますので、鏡や唾液を吸う管などで舌を抑えてそれを防ぐように気を使っていなければなりません。また唇や頬粘膜も同様に切削器具に当たらないように気を使わなければならないので、唇や頬粘膜も存在しない方がありがたいです。そんなこと大したことないじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、中には緊張などで舌や唇、頬粘膜に力が入っていて、よけて治療するのがとても大変な患者さんがいらっしゃいます。歯科治療で大変な治療になるのは、治療そのものの難易度が高いのではなく、大概は舌や唇、頬粘膜の力がすごく強いか、口があまり開かないか、大暴れするお子様です。
それから通院期間中は食事を停止できればすごく治療が楽になります。歯や周囲の組織が炎症を起こしている場合は、噛む力が加わると治癒を阻害したり、痛みを増悪する可能性があるので、食事はしない方がありがたいです。また噛んだりすることによって仮の蓋や仮歯は取れやすかったり、削れやすかったりします。見た目だけ整えるので良ければ仮歯を作るのは半分の労力で済むのですが、少なくとも治療期間中に食事をできる状態に保ちながら治療を進めていくというのは意外に大変な事なのです。
大変バカバカしいことを書いてきましたが、逆に言うと歯科医師はそういうような点にも常に注意を払って常日頃から治療を行っているんだなとご理解いただければ幸いです。