親が歯医者な人生

私の父親も歯科医師でしたが、歯科医師の子として過ごすのはどういう感じだったかを書きたいと思います。

子供は歯医者さんに行くことは普通は嫌いなものです。私はもちろん痛い思いをするのは今でも嫌いですが、少なくとも他の子供のように治療に対して恐怖を覚えたり嫌悪感を持つということはありませんでした。おそらく親が歯医者なので治療なんか怖くないという強がりも多少あったかもしれませんが、少なくともすごく嫌悪するということはありませんでした。自宅と父の診療所が近く、たびたび訪れていたということもあり、歯科医院の雰囲気や独特な薬品の臭いなどに慣れ親しんでいたということも歯科医院という場所や治療自体への恐怖が少なかった理由かもしれません。そういうわけで、歯医者さんのあのキーンという音は今に至るまで嫌な音と思ったことはありません。

子供の頃に何本か虫歯を作りましたが、虫歯ができると診療所に呼ばれ、しばらく休憩室や技工室などで待機します。他の患者さんの治療に合間ができると診療室に呼ばれて治療されます。一般的に歯科医院では今でこそ子供の治療においては保護者によく説明をし、本人に対しても丁寧に治療をしますが、私が子供だった40年ほど前は事情が違ったでしょうし、何より自分の子供ですので、説明もほどほどに、やさしく声がけすることもなく問答無用で治療されていた記憶があります。もちろん先述の通り私自身も治療自体がすごく嫌というわけではなく、治療の際に駄々をこねなかったので父としてはずいぶんやりやすい患者だったのではないかと推測します。

そして今では自分の娘の親が歯医者です。まだ1歳半ほどで診療室に来たことはありませんが、きっと私と同様に歯医者に行くことが嫌いではない子に育ってくれると思います。私は年に何度か幼児健診や保育園健診などで、一度に多くの子供の口の中を見る機会があります。昔とは違って就学前に虫歯がある子供は10人とか20人に1人いるくらいで、本当に虫歯がある子供は少ないです。そんな状況の中、よもや歯科医師である私の子供に虫歯を作らせるわけにもいかず、ようやく歩き始めてあちこち動き回る娘の口の中なんとか観察して、歯ブラシなどを頑張る毎日です。