歯医者はAIに仕事を奪われることはあるか
最近話題のチャット型AIのChatGPT。というわけでChatGPT3に今年の歯科医師国家試験問題を解いてもらいました。
まずは1問目。
睡眠時無呼吸症候群による高血圧について、正しくないのはどれか。 a 夜間高血圧となることが多い。 b 肥満患者では減量を推奨する。 c α 遮断薬が第一選択薬である。 d 家庭血圧では早朝に高血圧となることが多い。 e 持続的気道陽圧法CPAPで降圧が期待される。 |
ChatGPTの答えは「c」、正解も「c」です。ChatGPTは以下のように解説しています。
正しくないのは「c α 遮断薬が第一選択薬である」です。睡眠時無呼吸症候群による高血圧に対する治療では、持続的気道陽圧法(CPAP)が一般的に第一選択とされています。CPAPは、睡眠中に気道が閉塞することを防止するために、気道に圧力を加えることで呼吸を助ける治療法です。肥満患者では減量が推奨され、高血圧のコントロールにつながることがあります。また、家庭血圧測定では、睡眠中に高血圧となることが多く、早朝に高血圧となることは稀です。夜間高血圧は睡眠時無呼吸症候群によって引き起こされることがあります。 |
解説も概ね的を射ていて論理的です。ただ一般的な高血圧治療薬としてよく使用されるα 遮断薬がなぜ第一選択ではないのかの解説が欲しいところです。
続いて2問目。
妊娠末期の腟分泌物細菌培養検査で B 群連鎖球菌GBSが陽性となった妊婦に 対する母子感染予防対策として、ペニシリン系抗菌薬の投与を開始する適切な時期 はどれか。 a 陽性判明の時点 b 妊娠 37 週時 c 陣痛開始時 d 子宮口全開大時 e 児頭排臨時 |
ChatGPTの答えは「b」ですが、正解は「c」です。以下はChatGPTの解説。
適切な時期は「b 妊娠 37 週時」です。妊娠末期の腟分泌物細菌培養検査でGBSが陽性となった妊婦には、分娩前にペニシリン系抗菌薬を投与することで母子感染を予防することが推奨されています。投与時期は、陣痛開始前に、子宮口が開く前に、または妊娠 37 週目以降に開始されることが一般的に推奨されます。 |
連鎖球菌などの母子感染は分娩時に起こるので分娩時に血中にペニシリン系抗菌薬が効いている必要があります。ChatGPTの答え「妊娠 37 週時」は正産期に入る時期で、正常な出産時期のリミットである41週まで出産が遅れたしたとしたら最長5週間も投薬し続けなければならず、そのような抗菌薬の長期にわたる投入は胎児にとっても母体にとっても害があります。正解の「陣痛開始時」は出産の一般的に6~12時間前ですので、陣痛が始まったタイミングで投薬すれば血中に抗菌薬がよく廻り殺菌効果が十分現れた状態で出産を迎えられますし、多少出産が遅れても一度か二度追加投与する程度で済みます。「子宮口全開大時」はもう今すぐにでも出産という状態ですから、この状態で抗菌薬を投与したのでは遅すぎます。
「妊娠 37 週目以降に開始されることが一般的に推奨されます」とありますが、この一文の内容を自体を許容できたとしても、明らかに「妊娠 37 週目以降」と「妊娠 37 週時」を混同したことが誤答に結びついているという推測が成り立ちます。
続いて3問目。
病原体と悪性腫瘍の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。 a ヒトパピローマウイルス 子宮体癌 b 成人 T 細胞白血病ウイルス 肺癌 c C 型肝炎ウイルス 肝細胞癌 d Helicobacter pylori 胃癌 e EB ウイルス 膵癌 |
ChatGPTの答えは「ac」ですが、正解は「cd」です。以下はChatGPTの解説。
正しい組み合わせは「a ヒトパピローマウイルス 子宮体癌」と「c C 型肝炎ウイルス 肝細胞癌」です。ヒトパピローマウイルスは子宮頸がんの原因ウイルスとして知られており、C型肝炎ウイルスは慢性肝炎を引き起こし、その後の肝細胞癌発生につながることがあるとされています。成人T細胞白血病ウイルスは、T細胞の白血病を引き起こすウイルスであり、肺癌とは関係がありません。Helicobacter pyloriは胃の慢性炎症や胃潰瘍、胃がんの原因の一つとされていますが、胃以外の癌とは関係がありません。EBウイルスはがんを引き起こす可能性があるウイルスの一つですが、特に膵癌との関連性が高いわけではありません。 |
aは「子宮体癌」ではなく「子宮頸癌」であれば正解というひっかけ問題なのですが、ChatGPTは見事にひっかかっています。しかも「ヒトパピローマウイルスは子宮頸がんの原因ウイルスとして知られており」という正しい知識も解説しながらの誤答です。解説自体はほぼ正しいと思います。
印象としては、ChatGPTは正しい知識を膨大に知っているが、その知識を統合して結論を出すのが苦手という印象があります。
ちなみに今回は一般に利用できるChatGPT3というバージョンで試したものですが、最新のChatGPT4は日本の医師国家試験やアメリカの司法試験に合格できたという話も聞きましたので、そちらのバージョンであれば正答できたかもしれません。
しかし仮にAIがペーパーテストに合格できたとしても、歯を削ったり、根管治療ができるロボットを開発しているという話はおおっぴらには聞いたことがありませんので、歯科医師がAIやロボットにとって代わる日はまだまだ先でしょう。しかしながら、デジタルレントゲンや光学印象、CAD/CAMを使用した歯の詰め物や被せ物の作製など、歯科の世界にも確実にデジタルトランスフォーメーション、DXの波は来ています。歯科医師自体は私の生きている間に消滅するようなことはないと思いますが、そうした最新技術にキャッチアップしていないと仕事がなくなる日は意外と早く来るのかもしれません。
※訂正
今回取り上げた3問は歯科医師国家試験ではなく医師国家試験の問題でした。