AIに診断させてみた
先週に引き続き、AIが歯医者の仕事を奪うことができるのかということで、現在無料で使用できるAIチャットのChatGPT3とBingチャットに症状のみで診断名と治療法を聞いてみました。
先に結論から。AIに歯の相談する時の総評と注意点です。
・歯科分野ではAIはまだまだ信用できるレベルではない
・ChatGPTとBingチャットに性能の有意差は無い
・独自の用語を創作しがち
・判断させるのは厳しいが、単純な説明する能力はぼちぼち
・日本語→英語→日本語というプロセスを経ると正確性がやや上昇
・AIに症状を説明する時はできるだけ詳しく書く
・自発痛、拍動痛、温痛、冷痛が特に重要
・とにかくAIを信用しすぎず、歯科医に診てもらうのが一番確実
さて、本編です。まずは患者さんご自身がわかるであろう症状のみを列挙して質問してみました。ちなみに歯科医師であれば下記の情報でばまず疑うのは「根尖性歯周炎」です。次に「歯周炎急性発作」や単なる「歯根破折」などです。可能性が低いが除外しないのは「歯髄炎」です。早速質問からご覧ください。
質問パターン1
あなたは歯科医師です。以下の症状を呈する者の診断名を可能性の高い順に3つあげ、それぞれの治療の概要を説明してください。
48歳男性咬合痛あり
自発痛あり
拍動痛あり
温痛なし
冷痛なし
当該歯に修復・補綴物あり
当該歯に大きな穴や欠けはなし
開口障害なし
周囲の頬や歯肉を押すと痛い
回答は以下の通りです。まずはChatGPT。
ChatGPT回答 – 質問パターン1
可能性の高い診断名は以下の通りです。
歯髄炎(Pulpitis)
歯周炎(Periodontitis)
外傷性咬合不安定症(Traumatic Occlusal Disease)
歯髄炎(Pulpitis):歯の神経が炎症を起こす状態で、咬合痛、自発痛、拍動痛が現れます。温度変化に敏感で、冷たいものを食べたり飲んだりすると痛みが強くなります。治療としては、患歯の神経を取り除き、根管治療を行うことがあります。
歯周炎(Periodontitis):歯周組織が炎症を起こす状態で、歯肉の腫れや出血、歯がグラグラする感覚、歯の根元の痛みなどが現れます。歯石除去や歯周ポケットの清掃などの治療が必要です。
外傷性咬合不安定症(Traumatic Occlusal Disease):歯の噛み合わせが異常な状態にあることが原因で、咬合痛や歯の振動を感じる症状が出ます。治療としては、噛み合わせを調整することで症状を改善することがあります。また、ストレスが原因である場合はストレス解消が必要となることもあります。
以上の診断はあくまでも可能性が高いということであり、正確な診断には患者の口腔内を診察する必要があります。また、治療の詳細については症状や患者の状態によって異なるため、歯科医師に相談することが重要です。
残念ながら「根尖性歯周炎」の文字はありませんでした。不合格です。診断は間違っていましたが、それぞれの病名の説明としては概ね正確と言ってよいです。
ちなみに「外傷性咬合不安定症」なる用語を歯科で使うことはありません。「咬合性外傷」という用語であれば正式な歯科用語です。
続いてBingチャットの回答
Bingチャット回答 – 質問パターン1
歯科医師の私からの診断と治療方法についてお伝えします。48歳男性で、咬合痛、自発痛、拍動痛があり、温痛や冷痛はなく、当該歯に修復・補綴物があり、大きな穴や欠けはなく、開口障害もないということですね。周囲の頬や歯肉を押すと痛いということでしたら、以下の3つが可能性が高いです。
歯髄炎(Pulpitis)
歯周炎(Periodontitis)
外傷性咬合不安定症(Traumatic Occlusal Disease)
歯髄炎(Pulpitis)は、歯の神経が炎症を起こす状態で、咬合痛、自発痛、拍動痛が現れます。温度変化に敏感で、冷たいものを食べたり飲んだりすると痛みが強くなります。治療としては、患歯の神経を取り除き、根管治療を行うことがあります。
歯周炎(Periodontitis)は、歯周組織が炎症を起こす状態で、歯肉の腫れや出血、歯がグラグラする感覚、歯の根元の痛みなどが現れます。治療としては、歯周ポケット洗浄や抜歯などがあります。
外傷性咬合不安定症(Traumatic Occlusal Disease)は、咬合力によって引き起こされる不安定な咬合で、咬合時に強い圧力がかかるために咬合面に違和感や不快感を感じる場合があります。治療としては、咬合調整やマウスピース装着などがあります。
以上の診断名と治療方法を参考にしてください。
回答の内容はほぼChatGPTと同じですが、微妙に説明内容が違います。また「歯科医師の私から」などと言っていたりして、やや人間味を出してきているのが特徴でしょうか。
次に日本語で質問するより英語で質問したほうが回答の精度が高いという話を聞きましたので、日本語で質問→それを英語に訳してもらう→その英語の質問に英語で回答→その回答を日本語で回答する、というパターンで質問してみました。
質問パターン2
以下のリクエストを1.英語に翻訳2.英訳した文章に英語で回答3.その回答を日本語訳してください。
あなたは歯科医師です。以下の症状を呈する者の診断名を可能性の高い順に3つあげ、それぞれの治療の概要を説明してください。
48歳男性咬合痛あり
自発痛あり
拍動痛あり
温痛なし
冷痛なし
当該歯に修復・補綴物あり
当該歯に大きな穴や欠けはなし
開口障害なし
周囲の頬や歯肉を押すと痛い
それでは回答を見てみましょう。オリジナルは英語でも回答していますが、その部分は省略しています。
ChatGPT回答 – 質問パターン2
提示された症状に基づいて、48歳男性患者の最も可能性の高い3つの診断は次のとおりです:
不可逆性歯髄炎
歯のひび割れ症候群
根尖性歯周炎
不可逆性歯髄炎は、逆転できない歯髄の炎症です。治療には、感染した歯髄を除去する根管治療と、歯の再感染を防ぐための詰め物が一般的に行われます。
歯のひび割れ症候群は、歯のひび割れによって敏感な歯髄が露出し、噛んだり噛んだりすると痛みが生じる状態です。ひびの深刻度に応じて、詰め物やクラウンなどの治療が必要になります。
根尖性歯周炎は、歯根の先にある感染によって引き起こされる痛みや不快感の状態です。治療には、根管治療が必要な場合があります。重症の場合は、歯の抜歯が必要になることもあります。
「根尖性歯周炎」という言葉が出てきましたが、三番目なので惜しい!説明はやや雑ですが、許容範囲です。他の候補病名もストレートに日本語で質問するより良さげです。
しかし我々は「歯のひび割れ症候群」という用語は使いません。「歯根破折」や「歯牙破折」という用語なら使います。説明も微妙です。
続いてBingチャットの回答を見てみましょう。
Bingチャット回答 – 質問パターン2
提示された症状に基づいて、48歳男性患者の最も可能性の高い3つの診断は次のとおりです:
不可逆性歯髄炎
歯のひび割れ症候群
根尖性歯周炎
不可逆性歯髄炎は、逆転できない歯髄の炎症です。治療には、感染した歯髄を除去する根管治療と、歯の再感染を防ぐための詰め物が一般的に行われます。
歯のひび割れ症候群は、歯のひび割れによって敏感な歯髄が露出し、噛んだり噛んだりすると痛みが生じる状態です。ひびの深刻度に応じて、詰め物やクラウンなどの治療が必要になります。
根尖性歯周炎は、歯根の先にある感染によって引き起こされる痛みや不快感の状態です。治療には、根管治療が必要な場合があります。重症の場合は、歯の抜歯が必要になることもあります。
お役に立てたでしょうか?
こちらもChatGPTと同じ診断名です。やっぱり少しだけ人間味が出ています。
では最後に、患者さんが実際に来院し、エックス線などの検査の結果を加えて質問してみましょう。これだけ情報があれば歯科医師による診断名は「根尖性歯周炎」一択でなのですが、どういう結果になったでしょうか。
質問パターン3
以下のリクエストを1.英語に翻訳2.英訳した文章に英語で回答3.その回答を日本語訳してください。
あなたは歯科医師です。以下の症状を呈する者の診断名を可能性の高い順に3つあげ、それぞれの治療の概要を説明してください。
48歳男性
咬合痛あり
自発痛あり
拍動痛あり
温痛なし
冷痛なし
当該歯に修復・補綴物あり
当該歯に大きな穴や欠けはなし
開口障害なし
周囲の頬や歯肉を押すと痛い
打診あり
当該歯はエックス線上では根管充填済み
当該歯はエックス線上で根尖部に5ミリ大の透過像あり
歯周ポケット測定では3ミリ以下
ますはChatGPT。
ChatGPT回答 – 質問パターン3
患者の症状に基づき、最も可能性の高い3つの診断は次のとおりです:
慢性根尖歯周炎
亀裂歯症候群
他の歯や組織からの紹介性疼痛
慢性根尖歯周炎は、通常細菌感染によって引き起こされる、歯の根の周囲の組織の炎症です。この状態の治療には、根管再治療または手術による感染組織の除去と、根管系の徹底的な清掃が含まれます。
亀裂歯症候群は、歯に亀裂があり、その亀裂が歯髄まで達している場合に、咬合時に痛みを引き起こす状態です。この状態の治療は、亀裂の範囲と場所によって異なり、歯を保護するためにクラウンやオンレイを設置することが含まれる場合や、亀裂が歯髄まで達している場合は根管治療が必要となることがあります。
紹介性疼痛が疑われる場合、痛みの原因を特定し、根本的な治療を行う必要があります。以上の診断と治療に加えて、症状の改善に向けては、痛みを緩和するために鎮痛剤や抗生物質が必要な場合があります。また、歯科医師は患者の歯の咬合を調整し、歯を正しく配置することで、症状の改善を促進することもできます。
真っ先に「根尖歯周炎」を出してきました。ほぼ正解を出してきたと言っていいのですが、惜しいのは「根尖性歯周炎」ではなく「根尖歯周炎」という普通では使わない用語を出してきたことと、「慢性」という言葉をつけてしまったことです。自発痛や拍動痛がある時点で「慢性」ではなく「急性」です。加えて指摘するのであれば「手術による感染組織の除去」とありますが、手術することもあり得なくはないですが、特殊なケースです。
また「亀裂歯症候群」という用語も使いません。言い換えるのであれば「クラック」「歯根破折」「歯牙破折」です。
「他の歯や組織からの紹介性疼痛」という文言も一見謎ですが、解説を見るとおそらく「関連痛」「連関痛」の事でしょう。これだけ具体的な情報を与えて「関連痛」「連関痛」という答えはいかがなものかと思いますが、歯髄炎や歯周炎などの可能性は低いと判断して苦肉の策として病名を出してきたのだとしたらなかなか考えている回答とも言えます。
続いてBingチャットの回答です。
Bingチャット回答 – 質問パターン3
あなたが説明した症状に基づいて、修復物のある歯に咬合痛、自発痛、拍動痛がある男性患者の診断には、以下のような可能性があります。
クラック歯症候群
歯髄炎
歯周炎
クラック歯症候群は、X線では見えないほど小さな亀裂がある歯で、咬合痛や自発的な痛みを引き起こす状態です。治療法には、歯を保護するためのクラウンやオンレイを設置する方法があります。
歯髄炎は、歯の神経を取り巻く組織の炎症で、自発的な痛みや拍動的な痛みを引き起こすことがあります。治療法には、根管治療または抜歯があります。
歯周炎は、歯の周りの歯肉や骨の炎症で、咬合時の痛みや圧力を加えたときの違和感を引き起こすことがあります。治療法には、スケーリングおよび根面平滑化、歯肉手術、または抜歯があります。
お役に立てれば幸いです!
あら残念。根尖性歯周炎がありません。そして相変わらずAIの創作病名っぽい「クラック歯症候群」という病名が・・・。
まとめですが、ひとつ言えることは歯科の相談はまだまだAIにはできないなということです。尋ね方をもっと工夫すればより正確な回答を得られるのかもしれませんが、少なくとも工夫しなければならない時点で開発途上だと言えるでしょう。
「歯周病とは何ですか」とか「インプラントの治療法について教えてください」など、単純な質問であればかなり正確に答えてくれますが、質問に複数の条件を与えて複数の解決法を提示させるという複雑な事には対応できているとは言えません。そういう意味では歯科の分野では単純な質問に対する回答くらいしか信頼できるレベルに達しておらず、単純な質問であれば従来のようにグーグルで検索したほうが複数の解を得られるため、現在においてはやはりAI独自の優位性については疑問があるなと感じました。