同業者の患者さん
私の歯科医院にはさまざまな職業の患者さんがいらっしゃいますが、患者さんとして来られると緊張するというか、気を使うのは同業者の患者さんです。なぜかと言えば、やはりプロの目で私の仕事の評価が下されるので、ツッコミどころが無いように治療したり説明したりしなければならないというプレッシャーがあるからです。
幸いというべきか、偶然にというべきか、知り合いの歯科医師以外で、私は歯科医師ですと名乗る患者さんを診たことはありませんので、極限の緊張は味わったことはないのですが、歯科衛生士さんの患者さんは何度か治療したことがあり、やはり緊張しました。歯科衛生士さんも歯科医師と同様に治療の現場を知るプロですから、どのような治療を受けているのかを把握した上で、私の治療が上手いか下手か、あるいは説明が的を射ているかをつぶさに評価されるわけですから、やはり緊張します。
しかし、全員が歯科医師や歯科衛生士であることを必ずしも明かしてくれるわけではないので、ステルス歯科医師やステルス歯科衛生士の患者さんも大勢いると思います。まあさすがに歯科医師であれば明かしてくれると思いますが。
しかも歯科関係者は歯科医師や歯科衛生士だけではありません。歯科関係者には歯科技工士はもちろんのこと、歯科助手や歯科医院の受付担当者、歯科関連商社や関連機器メーカー、関連サービスに従事されている方などもいます。それに加えて歯科助手のバイトをした経験がある方など、過去に歯科業界で働いてた方も含めれば歯科の知識がそれなりにある人の数は相当なものだと思います。
変な話ですが、こうしたステルス歯科関係者の患者さんの存在は、自分の仕事に緊張感をもたらし、質の高い治療を提供しようというモチベーションにもなります。なぜなら、今日これから診る患者さんが歯科関係者かもしれませんし、ご本人はそうでなくてもご家族が歯科関係者ということは大いにありうる話ですので、緊張感をもって診療に当たらなければならないからです。
また医師や看護師の患者さんもいらっしゃいますが、炎症、感染、鎮痛薬、抗生物質といったようなキーワードに関わるような処置や説明をする時はやはりツッコミどころがないようにしなければというプレッシャーがあります。
私自身は身内や友人以外の歯科医師にかかった経験はないのですが、そういう人にわざわざ頼んだり、遠くに出かけて治療を受けるのは面倒だなと思う時があり、全然知らない自宅近くの歯科医院にかかろうかなと考えるときもあります。その折には変なプレッシャーを与えないようにしなければと思うと同時に、歯科医師であることを明かした上でいい治療が受けられないかなというヨコシマな思いもないわけではありません。