吉村大阪府知事のツイートについて

先日の吉村大阪府知事が以下のようにツイートしました。

吉村知事のツイートの通り、歯科医院でのクラスターが発生しない大きな理由は、歯科医院での感染予防策によるものであることは間違いありません。

歯科の治療は言うなれば外科的であり、出血を伴う処置をする頻度が大変高いです。抜歯ではもちろん必ず出血しますし、抜歯以外の処置の時でも歯茎に少しでも炎症があれば触れただけで出血します。血液は感染源として最も注意しなければならないものです。また血液と同様に感染に気を付けなければならないものに唾液がありますが、唾液には100%患者さんごとに触れます。

歯科では新型コロナウイルス流行前のはるか昔より、 B型肝炎、C型肝炎を始めとした血液や唾液が感染を媒介しうる感染症の対策にかなりの物的・人的リソースを使いながら診療を行ってきました。おそらくどこの歯科医院でも皆さんが思う以上に細やかに対策されていると思います。

B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスは、新型コロナウイルスよりも消毒に対する耐性があるため、歯科医院ではこれに対応するため強力で効果的な滅菌消毒法を採用してるのに加え、器具や診療台はもとより患者さんが触れたり、飛沫が飛ぶであろうと思われるありとあらゆる箇所の消毒を患者さんごと行います。おそらくこれが歯科医院でクラスターが発生しない大きな要因ではないかと思います。

しかし待ってください。ではクラスターがたびたび発生する病院では同じような対策をしていないのでしょうか。そんなことはありません。病院も歯科医院同様、あらゆる感染症に対する対策を強力にしています。

歯科医院も病院も、同じような方法で患者さんごとに器具を滅菌消毒しますし、感染予防のために使い捨てを推奨していますし、密にならないよう工夫しますし、換気もしますし、マスク・グローブもしますし、受付にはアクリル板などの遮蔽もありますし、同じような対策をしているはずです。

私見ですが、歯科医院では発生しないのに病院ではクラスターがたびたび発生してしまう理由は、病院では多くの患者さんが入院「生活」をしているからではないかと思います。「生活」していれば、食事もしますし、トイレにも行きますし、入浴もします。多くの人が長い期間同じ場所で「生活」し、その中での「水場」を共有する – これが歯科医院と大きな病院との違いだと思います。

もちろん病院もこれに対策をしていると思いますが、新型コロナウイルスの流行でただでさえ医療サービスに混乱が生じているところに、患者さんの生活という医療以外の細かい部分まで人的リソースを割いて対応するというのは簡単な事ではないと容易に想像がつきます。

先日都営大江戸線の運転士詰所でもクラスターが発生し、この原因として洗面所が指摘されました。多くは一晩単位なのでしょうが、詰所という場所で複数の運転士が宿直という共同「生活」し、歯磨きや入浴で「水場」を共有し、ウイルスの付着した蛇口などを触った後にその手で目、鼻、口などを触ることによって感染が広がったと思われます。

歯科医院でも洗面所やトイレといった水場がありますが、病院とは違って利用頻度も低いですし、頻度が低いからこそ清掃や消毒も行き届きやすいです。

歯科医院は入院設備のない、いわゆる無床診療所です。無床診療所は歯科医院だけではありません。いわゆる町の内科、耳鼻科、小児科の医院・クリニックも入院設備はありません。そういった診療所でも当然同じように感染対策を行っているのでクラスターはほとんど出てないのではないでしょうか。

歯科だからという理由ではなく、無床診療所で入院患者さんがいない医療機関だからクラスターが出にくいのではないでしょうか。私はそう思います。

今回の記事は一つの考察です。要因は一つではなくもっと複雑だとは思いますし、自分の言っていることが絶対とは思いませんが、そういう視点も必要なのではないでしょうか。

以前のオガログ!『コロナウイルス感染症と歯科』でも関連の記事を書きました。参考にどうぞ。