人生初めての患者さん

歯科医師である以上誰しもが人生初めての患者さんがいるはずですが、私自身は何人か思い当たるフシがあるものの、このケースだったと特定して思い出せません。初めての抜歯や初めての神経の治療など、処置ごとにはなんとなくは覚えています。

患者さんの立場になって考えると、歯科医師にとっての初めての患者さんであるということは知らされないので、ある意味スリリングなことだとも言えます。私自身も初めての抜歯は大学病院に臨床実習に来ていた歯学部の学生の親知らずで、その学生さんには初めての抜歯であることを伝えていますが、それ以外の初めての虫歯の治療などは患者さんに自分にとって初めての処置である旨は伝えていません。

歯学部の実習では虫歯治療を始めとした治療の訓練のようなことを模型を使ってすることはするのですが、数はこなさず一つのケースをじっくり行います。どちらかというと実際の患者さんの治療に向けた練習というよりは、時間をかけてその理論理屈を学ぶ場なので、歯学部の実習だけでは満足な治療ができるだけのスキルは身に付きません。大昔は学生のうちに実際の患者さんの治療をし、中には歯科医院でバイトをする学生もいたということですが、現在においては免許のない学生は実際の患者さんの治療はしません。それゆえ、新たに歯科医師になった者はほぼぶっつけで初めての患者さんに臨むことになります。

しかし初めての患者さんに「実はあなたが私の初めての患者さんです」とお伝えすることは、ともすれば不安を招きかねないので、ほとんどの場合そうは言わないと思います。私も初めてする処置の時はあたかも何度もその処置をやったことがあるかのような雰囲気を出しながら治療に臨んだことを思い出します。

問題はそんな初めて治療するような歯科医師に任せて大丈夫かということですが、大丈夫です。それは現在は最初の1年間は研修医として研修することが義務化されており、必ず指導医のもと診療を行っているからです。指導医は何も研修医のすぐそばで腕を組んで監督しているというわけではありませんが、指示を出し、指導し、いざという時に出てこれる体制を取っています。

それでもなりたての歯科医師は技術的に優れているわけではありませんが、歯学部ではやってはいけない事を徹底的に学び、国家試験において選択してはいけない選択肢を一定以上選択すると合格点に達していても不合格になるなどのハードルがあるため、指導医の存在も相まって、経験不足を原因とする不都合は起こりにくい仕組みになっています。

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